事業内容

材料・技術の維持と開発

Developing Techniques and Materials

国装連では、伝統技術を維持・継承することを基本としながら、より安全かつ安定的に次世代へ文化財を伝えるための様々な技術及び材料開発に日々取り組んでいます。この事業の一部は、文化庁による国宝重要文化財等保存整備費補助金により実施しています。

装潢修理技術に不可欠な伝統材料

伝統的な材料を用いるのは、数百年繰り返し使われ洗練されてきた道具と材料の組み合わせを軸とすることによって、さらに次の100年を保つ修理が可能となるためです。

元々装潢文化財の多くは室内で座して鑑賞するものでした。ひと昔前は一般の家屋にも畳敷きの座敷に障子や襖、床間に掛軸をしつらえる空間がありましたが、生活様式は変化し、それに伴ってこれらの製作者が激減しています。伝統的な道具・材料とそれを使いこなす技術が、文化財修理の現場にのみ必要とされることになりかねません。実際に文化財修理においても、後継者不足や原材料の枯渇によって材料や道具の確保が年々難しくなってきています。

技術や材料は一度途絶えれば復元することは容易ではないため、国装連は関係機関や材料用具の製作者と連携しながら、将来を見据え維持継承のための活動を行っています。

・関連する選定保存技術
「表具用古代裂(金襴等)製作」「表具用手漉和紙(美栖紙/宇陀紙/補修紙)」「美術工芸品保存桐箱製作」「表具用打刷毛製作」「表具用刷毛製作」「装潢修理・材料用具製作」

装潢修理技術を支える道具・材料

  • 膠の開発、改良事業

    文化財修理で使用する伝統材料の多くは、需要の低下にともない確保が困難となりつつあります。膠についても例外ではなく、国内の生産量は減少しています。そこで、装潢分野の文化財修理で使用するための安全で使いやすい膠を安定的に確保する事を目的とし、関係機関と連携して、近年研究が進んでいる「古典的膠」の製造技術習得のための研修の開催、試作による検討、内製化を目指した環境整備などに取り組んでいます。

  • 古代裂(表装裂)作製 事業

    装潢文化財の修理には表装を伴うことが殆どであり、文化財に取り付ける表装裂は、文化財の時代背景に相応しいものを考慮することが重要です。

    現在では、京都の西陣などの表装裂の生産者の減少と共に金襴・緞子・綾などの現存している表装裂のバリエーションも減少していることから修理した文化財に相応しいものを選ぶことが困難になってきています。そこで連盟では、古代裂を調査研究し、文化財を修理する技術者自らが、修理した文化財に相応しい表装裂をプロデュースする手順や方法の知識を習得することを古代裂(表装裂)作製事業の目的とし、表装裂の生産者と連携して取り組んでいます。併せて、この事業が西陣などの織物業の活性化に繋がることも願っています。

  • 電子線劣化絹の作製事業

    絹本を基底材とした文化財の修理に当たっては、劣化したオリジナルの料絹と補填する補修絹との強度や柔軟性のバランスが重要となります。オリジナルの料絹の状態に近い補修絹の製作方法として、絵絹に電子線を照射して劣化させる方法が関係者と共同で昭和40年代に考え出され、実用化されました。現在では絹本修理に欠かせない材料となっている電子線劣化絹は、高崎量子応用研究所等と連携して改良をしながら、作製と供給を行っています。

伝承者養成等事業

Nurturing Personnel

国装連では、文化庁による国宝重要文化財等保存整備費補助金により、「文化財保存技術(装潢)伝承者養成等事業」として主に下記の事業を実施しています。

  • 定期研修会の開催

    定期研修会の開催

    国装連登録技術者を対象に、平成7年度より定期研修会を毎年開催しています。この研修会は大学・大学院等の文化財関係課程にて学ぶ学生、文化財に興味を持つ一般市民の方々等へも公開しています。

    この研修会では、毎回異なったテーマを設定し、文化財修理に関連する自然科学・人文社会学などの分野の学識経験者による講演のほか、各工房による修理事例報告、ポスターセッションなどを実施しています。また、毎回「定期研修会報告集」を出版し、その記録を蓄積することにより、技術の伝承に資することを目的としています。

  • 修理技術者資格制度

    修理技術者資格制度

    国装連では平成15年から修理技術者資格制度を設けています。この制度では修理実績や実技、筆記、面接の試験を通じて修理技術者の技能を客観的に評価し、技術者の技術の向上、必要とされる理念や知識の習得を目的としています。
     外部委員会による主任技師試験・技師長試験の実施のほか、登録技術者を対象とした資格別の講習会(新任者研修、初級・中級講習会など)を実施しています。

  • 修理技術者インターンシップ事業

    修理技術者インターンシップ事業

    修理技術者インターンシップ事業は、文化財修理関連の履修課程を有する大学によって構成される「大学院生インターンシップ協議会」より推薦を受けた大学院生について、実際に文化財修理を行っている修理現場において見学・実習受け入れを行うことで、学生の学習意欲を喚起し、高い職業意識の育成に寄与することを目的としています。

    大学院生インターンシップ協議会は奈良教育大学・奈良大学・京都嵯峨芸術大学(当時)・京都造形芸術大学(当時)の4大学で平成18年に発足し、現在は、京都市立芸術大学、京都芸術大学、嵯峨美術大学、東北芸術工科大学、奈良大学が加入しています。この協議会と各大学、国宝修理装潢師連盟及び京都国立博物館が協定を結び、同館文化財保存修理所内の工房での実習生受け入れが行われています。

  • 補修紙作製及び紙繊維組成検査研修事業

    国装連では、補修紙をはじめ文化財修理に使用する様々な紙についての分析や抄紙方法に関しては、昭和58年頃から高知県紙業試験場(現、高知県立紙産業技術センター)の協力のもと発展してきました。現在も、技術者に必要な紙本文化財の欠失箇所を補修する際に必要な補修紙の作製に関する材料及び抄紙技法、また、その補修紙の作製に際して本紙繊維の同定検査に関する方法及び分析に関する実習を、毎年度実施しています。

  • 『近現代絵画修理』ガイドライン作成事業

    昨今、修理する機会の増えてきた近代の絵画については、前近代の伝統的な材料とは異なる材料が使用されている場合があり、修理の際に注意が必要な場合があります。今後修理が必要になるであろう明治時代以降の文化財について記録を録り、取扱い等、今後統一した指針のもとに修理事業が実施され、安全かつ確実に次世代に継承されるための一助として、国装連が伝世品文化財の修理を通じてこれまで培ってきた経験を生かし、外部有識者の意見を仰ぎながら、修理ガイドラインの作成を進めています。

  • 修理に必要な科学に関する講習会

    調査記録のための実技講習会事業

    文化財修理においては、自然科学的な知識や薬品の取り扱い、調査記録に必要なデジタルカメラをはじめとしたデジタル機器の使用方法などについての専門の知識や技術が不可欠です。
    文化財修理に必要な科学に関する知識とデジタル機器の技術の習得を目的として、外部から専門家を講師に招き、基礎から学ぶ実技形式を含めた講習を行っています。これまでに、「科学的な材料とその使用方法の講習会」、「調査記録のための実技講習会」を開催しました。

国際交流事業

International Exchang

  • 『古代遺物及び美術品の保存』

    東洋美術保存修復専門家研修 昭和42(1967)年

  • 国装連と海外の美術館・博物館等との交流は、昭和34年の連盟設立まもない頃から現在まで、様々な形で実施されています。当時の海外の先進的な文化財修理の倫理を日本の装潢文化財修理に取り入れ、現在の装潢文化財の保存修理の基礎となっています。以来、各国の専門家と交流を図ってきました。また、装潢修理技術のワークショップや海外研修生の受け入れ、在外の日本文化財修理にも協力しています。
     今では装潢文化財修理とその材料、道具を含む文化財修理技術は世界的にも洗練された手法として認識されており、2020年にはユネスコ無形文化遺産「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」として、装潢修理技術が登録されています。

これまでの主な取り組み

  • 昭和42(1967)年 イギリスの考古学・保存科学者H.J.プレンダリース(1898−1997)による著作『古代遺物及び美術品の保存』〔Harold James Plenderleith "The Conservation of Antiquities and Works of Art -Treatment, Repair, and Restoration-(1956)〕の翻訳刊行事業
  • 昭和42年、欧米の博物館関係者を対象とした「東洋美術保存修復専門家研修」(ユネスコ,国際博物館会議〔ICOM〕共催)の日本開催。加盟工房における実習を通じ、欧米各国に所在する東洋文化財の修理に対する技術支援の必要性が痛感される。
  • 1990年代 「文化財赤十字構想」開始(故平山郁夫先生による)
  • 平成2年 「在外日本古美術品保存修復協力事業」(文化庁・東京国立文化財研究所(当時)
    芸術研究振興財団(当時)共同)開始
  • 平成4年 「日本の紙の保存修復国際研修」(東京国立文化財研究所,ICCROM(文化財保存修復研究国際センター))開始
  • 平成7年 初の国際シンポジウム「日本美術品の保存修復と装潢技術」主催
  • 平成16年 国際シンポジウム「東洋文化財修復技術の現状と未来」(第10回定期研修会)主催
  • 平成18年 イギリス・大英博物館において技術支援事業を開始。「第1回東アジア紙文化財保存修理シンポジウム」を北京にて開催。以降第5回まで日中韓で開催。

    現在国装連では内外の各関係機関のご協力を得つつ、主に下記のような国際交流事業を実施しています。

  • 大英博物館での修理事業

    本事業は平成18年度より住友財団の助成を受けて継続しています。経験豊かな技術者を大英博物館平山スタジオへ派遣し、現地の職員と大英博物館所蔵品の修理作業を共同でおこなっています。日本での作業経験のない現地職員と一緒に作業をすることにより、正しい日本の装潢修理技術についての理解を促し、また、日本とは異なった環境で作業をすることにより連盟登録技術者は海外での経験を積み視野をひろげる機会となっています。

  • ICCROMによる国際研修

    世界の文化財保存関係者を対象とした国際研修事業に協力しています。装潢修理技術の指導に加え、和紙を始めとする日本の伝統材料や道具類の紹介など、技術交流や選定保存技術の広報活動を行っています。

    これまで、東京文化財研究所とICCROM(文化財保存修復研究国際センター)による国際研修「紙の保存と修復(日本)」、「ラテンアメリカにおける紙の保存と修復(メキシコ)」を始め、「日本の紙本・絹本文化財の保存と修復(ドイツ)」、「染織品の保存と修復(台湾)」などの講師として招聘を受けています。

  • その他の国際交流事業

    国際交流事業として、技術習得のための海外技術者受け入れや研修、国装連の技術者の海外派遣などを、関係機関の協力を得て毎年実施しています。国内外の技術者による共同作業やワークショップを開催し、国際学会などにも参加しています。

    これまで、JICAエジプト国別研修「保存修理としての和紙研修」や、「ポーランド・クラクフにおける文化財保存技術発信・交流事業」や、ICOM(国際博物館会議)での発表などを実施してきました。

その他の事業

文化財レスキューの取り組み

文化財レスキューの取り組み

文化財レスキューの取り組み
(画像提供:川崎市市民ミュージアム)

災害が発生した際は、文化庁等関係機関と連携し、国装連内の危機管理災害対策室が情報収集を行い、加盟工房のネットワークにより文化財の救済にあたる体制を整えています。
これまでも熊本地震、首里城の火災、川崎市市民ミュージアムでの台風被害等で、文化財の救済のために技術者を派遣してきました。

国装連は、令和2年10月1日に開設した国立文化財機構文化財防災センターにおける文化遺産防災ネットワーク推進会議参画団体の一つともなっています。

美術工芸品修理に必要な用具・原材料調査事業

原材料調査事業

原材料調査事業

文化庁文化財第一課が実施する「美術工芸品修理に必要な用具・原材料調査」事業に、国装連理事が委員として参加しています。

修理に不可欠な用具・原材料の生産あるいは供給の現場に赴いて、生産者や製作者と直接交流することで生の声を聞き、危機に瀕している状況の把握と必要な対応策について国とともに検討と対策を進めています。平成三十年度より実施され、令和2年度現在も継続中です。

詳細は『月刊文化財』第六八四号をご参照ください。

修理事業

通常、装潢文化財の修理は国宝修理装潢師連盟の理念のもと加盟工房において行われています。しかし、大規模かつ長期にわたる修理や前例のない修理においては、単独工房のみの施工では難しい場合があります。このような事業を遂行する際は、国装連が主体となって加盟工房から人材を結集し、修理事業にあたっています。

最新の事業紹介

二条城二之丸御殿障壁画修理

二条城

国装連では平成18年から重要文化財二条城二の丸御殿障壁画修理事業(京都市)を実施しています。城内の修理施設に技術者が常駐し、狩野派により描かれた襖、壁貼付などを修理しています。
襖といっても幅が2mを超えるものもあり、長年御殿で使用されていたこれらは、経年によってとても脆弱になっています。956点に及ぶ障壁画のうち、現在、年間で20点余りを修理していますが、単純に計算しても全て修理するには50年近く要します。加盟工房の各社から技術者を集め、息の長い取り組みが進められています。

国宝修理装潢師連盟による近年の主な修理事業

所有者 指定 文化財の名称等 修理期間
宮城県(宮城県図書館) 宮城県 宮城県図書館所蔵貴重資料 平成16〜
国(文化庁) 国宝 高松塚古墳壁画保存処置補助 平成17〜
国(文化庁) 国宝 キトラ古墳壁画保存処置補助 平成17〜
京都市
(元離宮二条城事務所)
重文 二条城二之丸御殿障壁画 平成18〜
国(文化庁) 重文
(建造物)
旧岩崎邸洋館
婦人客室天井刺繍
平成19
那覇市(那覇市歴史博物館) 国宝 琉球国王尚家関係資料 平成20〜27
高伝寺 佐賀市 大涅槃図応急修理 平成20〜21
京都府 重文 京都府行政文書 平成21〜
建徳寺
(松野町目黒ふるさと館寄託)
重文 目黒山形関係資料 平成21〜28
霧島神宮 重文
(建造物)
本殿・幣殿彩色層剥落止 平成22〜24
山口県 重文 山口県行政文書 平成23~27
長松寺 重文 高麗版大般若経 平成24~29
北海道 重文 開拓使文書 平成27~
武雄市 重文 武雄鍋島家洋学関係資料 平成27
長崎県立対馬歴史民俗資料館 重文 対馬宗家関係資料 平成27

加盟工房による主な共同事業

所有者 指定 文化財の名称 修理期間 施工工房数
厳島神社 国宝 平家納経 昭和33〜47 2
知恩院 国宝 法然上人絵伝48巻 昭和40〜43 3
興聖寺
(管理団体:宗像大社)
国宝 色定法師一筆一切経4,331巻 昭和40〜平成2 4
(財)冷泉家時雨亭文庫 重文 明月記(自筆本) 昭和62〜平成10 2
太宰府天満宮 重文 太宰府天満宮文書 平成4〜6 4
米沢市
(米沢市立上杉博物館)
重文 上杉家文書1,752通 平成7〜8 4
三千院 重文 三千院円融戯典籍文書類3,021点 平成9〜11 6
東大寺 国宝 東大寺文書8,516通(未成巻文書) 平成12〜21 6

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